マッスルハウス3 1/3 後楽園ホールその3



紋付姿の鶴見亜門が「はい、ストップ、ストップ、ストーーーップ!」

試合は10分8秒、無効試合に。

「このバカタレがー!」と松井レフェリー含む7人に次々にハリセン(右写真)。

坂井「あんた何試合邪魔してんのさ?いいとこだったのに!この試合に勝ったら俺たちドームに出れたんですよ!」
アントン「なんだよ亜門さん!そんな正月らしい色紋付の着付けに時間がかかって出るの遅れたんでしょうが!」


坂井とアントンがメガネに手を掛ける。2人をぶん投げる(左写真)。
「メガネに触れるな。お前らさっきから俺のことを亜門、亜門ってなんなんだよ?ひょっとしてウチのダメイトコのこと言ってるのか?」
べ、別人なの?

「えー、後楽園ホールにお越しの皆さん、新年あけましておめでとうございます。私、鶴見亜門のイトコで日本最大のテレビ局・ジャパンテレビの超人気演芸番組『頂点』のディレクター兼総合司会を務めております三流亭鶴見と申します。」
えーーーーっ。

「我々の番組は皆さんご存知のとおり40年以上も続いている一番有名なお笑い番組であります。今回は新春特別企画といたしまして今晩夜9時からの放送が急遽決定いたしました。それで今から収録を行いたいと思います。」しゃべってる後ろで着々とセットが組み立てられる(左写真)。

アントンが「ちょっと亜門さん、いい加減にしろよ!」文句つけると顔面にバックブロー。「お前らしつこいよ。俺は落語一筋、プロレスなんてくだらないものは一度も見たことが無いんだから。」

坂井「まあ別にあんたが鶴見亜門だろうが三流亭鶴見だろうが、ぶっちゃけどうでもいいんだよ。それより、この神聖なリングに部外者が土足で上がったことが問題なんだよ。ここはプロレスの聖地・後楽園ホールだぞ!」観客拍手。
鶴見「わかっちゃいねえな。ここ後楽園ホールはジャパンテレビグループの持ち物のスタジオなんだよ。そして我々はここでもう40年以上も毎週『頂点』の収録をしてきたんだよ。つまりここではいかなるイベントよりも『頂点』の収録が優先されるようにできてんだよ。」

ペドロ「ちょっと待ってくださいよ。僕たち何ヶ月も前からこの会場を押さえて、前売りだって売ってるんですよ!」
趙雲「そうですよ!ここにいるお客さんたちは僕たちの試合を見に来ているあるよ。」
鶴見「お前ら日本最大のテレビ局ジャパンテレビに楯突こうってんだな。そのガッツだけは認めてやるよ!お前のガッツだけは認めてやるよ!ガッツワールドをな!」右写真

「まあお前らの言い分はともかくとして、日本全国のお茶の間の皆さんが楽しみにしてるんだよ。お前らみたいな地上波もついてない4流インディーレスラーと一緒にされちゃ困るんだよ!それにここに来てる観客だってお前らが手売りで集めた親戚や中学校の同級生とかだろ?みんな義理で見に来てんだよ。どこの世界に正月からプロレス見に来るバカがいるんだよ?みんな家出お笑い番組みたいに決まってんだよ。だったら『頂点』の収録見れる方がいいだろ?」
そしてステージ撮影用の固定カメラの設置も完了(左写真)。

坂井「一体どうやったらそんな理屈が通用するんだ・・・ああっ!勝手にセットが組まれてる!」「頂点」の額も掛けられステージセット完成(右写真)。
鶴見「どうですか皆さん?テレビのセットがこうして組み立てられるところなんてなかなか見れませんよね。この美術を担当してるのは鰍ツむら工芸さんと言いまして、テレビのセットだけではなくて吉本新喜劇の舞台づくりも担当している業界の第一人者なんですよ。」
そこに藤岡典一が入ってきて鶴見に何やら耳打ち。

鶴見「ええー!大喜利のレギュラーメンバーが全員楽屋で息を引き取ったぁ!?死因は?」藤岡「老衰です。」おーい!
鶴見「ええ?6人全員がか?」
藤岡「6人ほぼ同時に息を引き取りました。」
鶴見「なんてこったー!これじゃ収録が出来ないじゃんかよ!長寿番組の宿命というか、40年以上も毎回同じメンバーでやってきたんだし、いつ誰がいなくなっても不思議じゃないとは思っていたが、なんで新春スペシャルで撮って出ししなきゃいけないって時にみんな揃って逝ってしまうんだ〜歌○さーん!」おいおい!


アントン「実名はやめましょうや。大丈夫ですか?」
鶴見「大丈夫なわけ無いだろ!今日の9時から放送するのに。あ、そうだ!君たち、さっきはひどいことを言ってすまなかったねえ。どうだろう、亡くなったレギュラーメンバーの変わりに大喜利に出てはくれまいか?」
アントン「えー!そんな、『頂点』の大喜利なんて無理っすよ!」

ペドロ「本多君!プロレスに反対している君のお父さんやお母さんもテレビ見てくれるかも知んないよ!」左写真
趙雲「っていうことは中国にいる僕のお父さんお母さんも見てくれるかも。」
鶴見「いや中国には放送しないから。お前は中国帰った方がいいんじゃないか?」

アントン「そういう話はどうだっていいんですよ!俺ら場末の4流レスラーがお笑いの『頂点』の大喜利にいきなり挑戦しようってのが土台無理なんですよ!」右写真

坂井がアントンに張り手。「バカヤロー!『頂点』の大喜利ったって、所詮出たとこ勝負の一発勝負であることには変わりは無い。相手がどんな技で来るか瞬時に予想して自分の攻撃を仕掛けていくプロレスと、出題者が出した問題に瞬時に答える大喜利もやってることに変わりはねえんだよ!」


ペドロ「小屋があって、お客さんがいる。これで十分なんですよ本多君。」右写真
アントン「みんな大人だね。」

鶴見「あの、盛り上がってるとこ悪いんだけど、そんなに難しく考えなくていいから。これ大喜利の台本。」藤岡が台本配る(左写真)。坂井「ええっ!」
鶴見「これにお題から答えから、司会者のリアクションまで全部書いてあるんで。」


坂井「司会者のリアクション!?どういうことですか?『頂点』の大喜利に台本があるって。」
鶴見「おいおいおい、シー。みなまで言うなよ。いいか、『頂点』の大喜利はほとんど生放送なんだよ。そんな時に答えが出なくて詰まっちゃったら大変なことになるだろ?俺らは出演者、作家、スタッフみんなで『頂点』の大喜利を作っていると、そう思っていただきたい。」

アントン「しつもーん!いつも紫色の人が最初に手を上げるのはなんでですか?」
鶴見「若いから物覚えが早かったんじゃない?毎回アドリブで言われてもこっちは応えられないんだよね。」

鶴見「よく政治風刺ネタとか言うじゃん、俺政治とかよくわかんないから、リアクション取れないんだよね。戌年にちなんで「○○けん、○○けん」で川柳を読めって言ったら『お手並み拝見、細川政権』とか言うじゃん。どこが面白いのかビタ一文わからないよ、俺は!ぶっちゃけ俺は下ネタしか面白くないんだよね。『感動体験、バター犬』とか。学問ないしさ、中学しか卒業してないし、15でこの世界入ってるし、こう見えて60過ぎだぜ。」えーっ。
坂井「わかりました。俺たちがやります。」

鶴見「じゃあ台本読んでおいてください。」
坂井「いや、台本とかそういうのはいらないです。なぜならば俺たちは大喜利を真剣勝負だと思って見てくれているお客さんに嘘をつくことはできないから!」
鶴見「うるせー人種だな、プロレスラーってのは。じゃ回収しろ。ビギナーズラックってこともあるかもしれないし、正月だからみんな笑ってくれるかもしれないしな。よし、そうと決まったら楽屋に戻って着替えて、ドーランとかも塗って。下島車掌について行って。」

藤岡が台本回収する(右写真)。回収するとなると見出すマッスル戦士たち。下島車掌についてトレインで退場する。

鶴見「準備が出来る前にみなさんにお願いします。彼らは素人ですので気の利いたことは言えません。ですが、テレビに出ているお笑い芸人だってそんなに面白くないんですよ。じゃあなぜ彼らが面白く感じるかというと、それはお客さんやスタッフの笑い声があるからです。それを聞いて視聴者は面白いと錯覚するわけです。ですから今回もみなさんは笑い声という効果音で『頂点』という作品作りにご協力ください。」

「具体的に言えば下島車掌右写真が台本をぐるぐる回したら笑ったり拍手したりしてください。じゃあオープニング撮っちゃおうかな?俺のいつもの席、南D列23番。え、売っちゃってんの?困ったなあ。収録あるからちょっとどいてもらえますか?」

南D列23番って俺の席じゃん・・・あ、なんか貼ってある(左写真)。仕方ないので一旦通路に退避。

新春初笑いお年玉スペシャルのオープニング映像。

三流亭鶴見。

へー、坂井はマッスル亭小坂井か。

趙雲子龍は北京亭ガッツ。

あー、確かにオープニングはこの映像だ。まずは漫才から。

舞台に出てきたのはなんと菊タロー(左写真)。

東京愚連隊も。トリオ漫才か。しかし全くやる気無さげなMAZADA(右写真)。

菊タロー「正月言うたら何したいですか?」
NOSAWA「そうねえ。温泉とか行きたいねえ。でも最近ダメなこと多いんですよ、刺青してるからって。」

菊タロー「そうですか?結構見ますけどねえ健康ランドとか。」
NOSAWA「これ系の人?」NOSAWA頬に手をやる。

菊タロー「やめー!」とハタく(左写真)。NOSAWA殴り返す。
菊タロー「結構行けますよ。受付でこう口でごまかせば。じゃあちょっとやってみましょう。あなたが受け付けやって。ワタシがアナタやって。」

菊タロー「ウィーン。」
NOSAWA「お客様、マスクをかぶった方はちょっと。」
菊タロー「かぶってない!アナタをやってるっちゅーに!」
菊タロー「もう一回やりますよ。ウィーン。」
NOSAWA「いらっしゃいませー。」とMAZADAを案内する(右写真)。
菊タロー「そっちかい!」

菊タロー「ウィーン。」
MAZADAが低い声で「いらっしゃいませ。」左写真)。


菊タロー「アンタが言うんかい!」右写真

まともに「いらっしゃいませ」が言えないNOSAWAに菊タローがツッコミ入れる(左写真)。

最後、菊タローがMAZADAと一緒に入っていくと、NOSAWA「いらっしゃいませ、当店は入浴料込み3万円となっております。」
菊タロー「!」
MAZADAすっと脇から出て来て無言でNOZAWAの手を握る。
NOSAWA(手を取りにこやかに笑い)「有難うございます。こちらへどうぞ」2人で退場する。
菊タロー「その風呂かい!」

菊タロー「もうアンタらとはやってられんわ!」退場。

ちゃんとした漫才になってたなあ。さすがM-1グランプリ経験者(えべっさん時代の2003年に1回戦突破)。



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